‡ ハナミズキ ‡



柔かい緑の背景に白い肌が冴える。その上に薄紅色の花弁の雨が降り注ぐ。艶やかな黒い絹糸

は雨に灑がれて揺れる。


その美し過ぎる景色に中学1年の春、恋をした。

それから三年目。沢山の事を知った。テニスの為の練習の仕方、ハナミズキと言う樹の名、その

ハナミズキのもとに居た美しい少年の名、その蓮二と言う少年がずっと恋い慕っている人間が居

るという事も…。


「弦一郎先に行っていてくれ」


蓮二は俺を「弦一郎」と呼ぶ様になった。しなやかな体はより美しく、穏やかな物腰は人を引きつ

ける何処か蠹惑的な匂いを帯びてきた。

俺はより蓮二を好きになった。求めるのは俺ばかりで、蓮二は俺を求めていない。俺の想いは重

過ぎて、いつか蓮二を沈めてしまう。

だから、誓った。あのハナミズキに誓った。

あの美しい景色を想いながら…、


「真田副部長〜柳先輩何処なんスかー?」


赤也が話し掛けてきたので、思考は中断された。


「ああ、呼んでこよう」


蓮二の行方に心当りが有った。と、言うよりも珍しく直感や確信で俺は蓮二を探しに向かった。


「蓮二、やはり此処に居たのか」


傾く西日に照らされて蓮二がゆっくりと振り返る。あのハナミズキの下に蓮二は居た。


「ああ、すまんな」


ふっ、と微笑む蓮二の唇は控えめに薄紅色に光っていた。


「お前は本当にハナミズキが好きだな。いつもここへ来る。」

「ああ…大好きな樹だ、幼い頃から庭のこの樹の下で遊んでいた」


きっとその傍らには居たのだろう。蓮二が幼い頃から想いを寄せている人間が―。


蓮二は愛しそうな表情で樹を眺め、表皮を撫でた。その指の長い細い爪を見ると、喉の奥から熱

いものが込み上げた。


「なぁ蓮二、今度の関東大会の決勝戦の日が、幸村の手術という事は言ったな?」

「ああ」

「幸村の為に、今迄皆やってきた。…幸村もそれは判ってる筈だ」

「…何が言いたい?」

「無理にとは言わん。…ただ、俺はお前の想いを無視する事は出来ん。だから、」

「何が言いたい、弦一郎ッ!」


蓮二は苦しそうに眉間に皺を寄せていた。


「お前にだって迷いや戸惑いがある筈だ。…何よりそう迄して勝てる訳がない!」

俺に負けろと言っているのか?精市との約束を破る気か!?訳の判らない事を言うな!」

「違う!…お前はお前の好きな奴と一緒になれなくて良いのか!!」


蓮二の愛する人間。幼い頃から蓮二と過ごし、蓮二に似て異なる性質を持つ、あの男。

激しい後悔が襲ってきた。蓮二が一番厭う言葉だったろうに、言ってしまった。

俺の中にずっと刺となって刺さっていた言葉を、言ってしまった。


「…違う、違うよ、弦一郎」


俯いた俺の沈黙を破ったのは蓮二の微かに震えた声だった。


「…俺が、好きなのは、」


ざわっ、と風が吹き薄紅色の花弁と蓮二の黒髪が震える。


「…好きなのは、

弦一郎、だけ、だ…」


花弁と同じ色に染まった蓮二の頬めがけて薄紅色の雨が降り注いだ。


「…本当、か?」

「…これからも、永遠に本当だ」


無意識に手を伸ばした。

蓮二を自分の腕の中に捕えると蓮二の唇に停まった花弁を自分の唇で取った。蓮

二は震え、俺にしがみ付いた。




柔かい緑の背景に白い肌が冴える。その上に薄紅色の花弁の雨が降り注ぐ。艶やかな黒い絹糸

は雨に灑がれて揺れる。

その美し過ぎる景色に、恋し続けた。

だから、誓った。このハナミズキに誓った。





「俺もだ、蓮二」




“君と好きな人が百年続きますように。”




 ――終。








山吹朱鼓さんに頂いた真柳小説です。

すごく内容も書き方も綺麗なお話で、真田の柳に対する気持ちを丁

寧に書いてらして、思わず感情移入して読んでしまいました。

同名の曲をモチーフに書かれたそうなのですが、歌詞を別の視点

から捉えてらして、読んでいると情景が浮かんできます。

どうしてもハナミズキの画像をつけたくて探したのですがなかなか見

つからなくて背景多分ツツジかなんかです、すみません;

山吹朱鼓さん本当にありがとうございました(*^^*)













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